何年か前に目にした記事のこと。インターネットで見かけたこの記事は、とある保育園で実際にあった支援の話が紹介されていたものだった。今となっては見つけられなくなってしまったことが非常に悔やまれるが、私の記憶を頼りに大まかな内容を紹介したい。
この保育園では、お弁当を持って通園することになっていた。そこに通う男の子が一人、毎日コンビニ弁当を持って来ていたそう。母子家庭で育つこの男の子のお母さんは、昼夜の仕事を掛け持ちして家庭を守っていたそうで、男の子は朝起きるとテーブルの上にある朝ごはんの脇に置いてある500円玉を持って出かけ、途中のコンビニでお弁当を買っていたのだとか。
ある面談の日。保育園の先生がお弁当について話したいと切り出す。男の子はお弁当を食べない日が続いていたことも重なり、園で心配されていたからだ。先生はお母さんに、「お弁当をお母さんが買って置いてきてあげたらどうだろうか?」と切り出した。お母さんは“お弁当を作ってあげて欲しい”と指導されると思ったところに意外な提案で驚いた様子だったそう。「『お母さんが僕に用意してくれたお弁当』と思えば、食べる気持ちになるかもしれないから」と。お母さんは、「それならできるかも」と返事をし、次の日から男の子は、お母さんの用意したコンビニ弁当を手に通園するようになった。そして、お弁当を食べるようになった。先生はお母さんにこの前向きな経過を伝え、このまま続けて欲しいと話した。お母さんも、コンビニでお弁当を選ぶ時に、どんなものなら息子が食べそうかと考えながら選ぶようになったとのこと。
次に先生は、男の子のお箸を買ってあげてはどうかと提案した。お母さんは男の子の好きなキャラクターの絵が描かれたお箸を用意し、男の子はコンビニ弁当を自分のお箸で食べるようになった。そして、完食するようになった。そのうちにお母さんは果物を男の子に持たせるようになり、毎日ではなくてもお弁当のお伴(果物やウインナー、おにぎりなど)を用意するようになった。そして最終的に男の子は、お母さんの手作りのお弁当を持って来るようになったという。凝ったものではなくても、男の子にとってはお母さんのお弁当は嬉しく、もちろん毎日完食しているそう。
私にとってこの記事はいつも、“ちょうど良い支援” について考えさせてくれる。お母さんにとっても取り掛かりやすく、それでいながらお母さん自身が子供へ注意を向ける時間を増やすようにサポートする支援のあり方。このお母さんが初めに「それなら私でもできるかも」と思えたことが一番大切なスタートだったのではないだろうか。そこから徐々にステップアップし、最終的にはお母さん自らが子供のお弁当を作りたいと思えるようになった変化は素晴らしい。セラピーの仕事でも、クライアントの気づきや自立へ向けたサポート(時には介入)の“さじ加減” の難しさを感じることがよくあるが、まずはクライアントが動き出しやすいステップを見極めることが要になるとこの記事は教えてくれる。
今日の仕事も「ちょうど良い支援」を目指して。。。
長江朱夏
音楽療法士