【コラム】スクールカウンセラーの現場から〜子どもの心を知る手がかりとは〜

小中学校のスクールカウンセラーとして勤務していると、特に夏休み明け、子供達の身体の成長に驚かされます。背が伸びた、体重が増えた、去年より早く走れるようになったなど、身体の成長は数値として現れ、周囲の大人もその成長を把握することができます。一方で、心の成長や変化を把握するのはそれほど簡単にいきません。保護者と面談していると、「学校であったことを何も話してくれない」「困ったことがあっても自分から言わないのでわからない」といった声をよく耳にします。

 

東京都の小学校では、5年生になるとスクールカウンセラーとの面接が全員必須となっています。事前にアンケートを配り、勉強や友人関係、自分の興味や強み、睡眠などについて、各自で振り返りながら記入してもらいます。アンケートや面談を通して、困っていることや不安を伝えてくる子どももいれば、多くを語らない子どももいます。記載していないから何も感じていないのではなく、書かないことや言わないことがその子どもの特性だったり、対処方法だったりするのだと感じます。

子どもの心を知ろうと思った時に、言葉は一番シンプルで分かりやすい方法です。ところが、言葉も感情も発達段階にある子ども達は、言葉を巧みに操って”心”を伝えることができません。怒りや悲しみ、期待や失望などを感じたとしても、それはどんな感情で、どうしてその感情が生じたのか、本当はどうしたかったのか、言葉で表せずに手が出てしまったり、過剰に我慢してしまったり、思ってもいない言動に出ることがあります。

 

コミュニケーションにおいて言葉が占める割合は約1割という仮説があるように、言葉で語られた内容以上に、表情や話し方、声のトーン、ゼスチャーといった非言語から伝わるメッセージが圧倒的に大きいということがあると思います。子どもの心を知りたいと思った時、本人を質問攻めにしてもなかなか知りたい答えは返ってきません。一緒に過ごしながら、表情や仕草、立ち振る舞いなどに注目する、描いたり作ったりしたものを眺める、好きなアニメやゲーム、歌などについて聞く、といった関わりからヒントを得ていきます。自分のことを話したがらない子どもでも、自分の好きなゲームについては生き生きと話をしてくれるように、子どもは自分の好きな世界に大人を招き入れてくれます。その世界には子どもの内面がたくさん映し出されていて、心を知る道標になります。

 

非言語アプローチを学ぶことは、セラピーの中だけでなく、あらゆる場面に生きてくるのだと改めて感じています。

 

倉石聡子(アートセラピスト、臨床心理士)